家族信託とは|メリット、デメリットを理解して上手に活用

家族信託は信頼できる家族に財産の運用や管理を託すことで、希望通りの財産管理や資産承継を実現できるというメリットがあり、相続対策としても有効活用できる制度です。しかしながら、家族信託にも少なからずデメリットも存在します。今回のブログでは家族信託のメリットとデメリットについてそれぞれご説明いたします。メリット、デメリットを知ることで、家族信託の利用が最適かどうか判断できるとともに、親族間トラブルや金銭トラブルなどの落とし穴を回避にもつながります。メリット、デメリットを理解して家族信託を上手に活用しましょう。

この記事は富山県・石川県で不動産売買・仲介業を行うオスカー不動産が記事を執筆しております。

家族信託のメリット

 

まずは家族信託のメリットとして次の7つをご紹介いたします。

  1.  自由度の高い財産管理が可能
  2.  成年後見制度では難しい柔軟な財産管理がおこなえる
  3.  遺言書の代わりとして使える
  4.  不動産の共有によるリスクを回避できる
  5.  財産承継の順位づけができる
  6.  二次相続についても指定できる
  7.  倒産隔離機能がある

それでは、それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

注意点

① 自由度の高い財産管理が可能

家族信託の大きなメリットとして、自分が元気なうちに、自分の意向に沿った財産管理を家族に任せられる点が挙げられます。認知症対策として任意後見制度がよくとりあげられますが、後見人の負担と制約が多く、本人の判断能力が衰えるまでは後見人は財産の管理ができません。家族信託であれば、判断能力があるうちから財産管理を任せられることに加え、もし本人が判断能力を失った場合でも、本人の意向に沿った財産管理をスムーズに実行できます。

② 成年後見制度では難しい柔軟な財産管理がおこなえる

家族信託では、成年後見制度よりも柔軟な財産管理をおこなうことができます。成年後見制度で認められるのは、あくまでも本人の財産を維持・管理し、本人が生活を送るために必要な支出をおこなうことのみに限られます。たとえ本人の財産を増やす目的であったとしても、本人の財産を利用して積極的に投資や運用を行うことはできません。また、本人名義の居住用財産(自宅)を売却する際には、家庭裁判所の許可が必要となるなど、手続きの手間や労力がかかることが懸念されます。

一方、家族信託では原則として、財産管理の方法を信託契約の中で自由に決めることができます。信託契約の範囲内であれば、成年後見制度では難しい不動産の買換え・購入・株式投資などの積極的な資産運用や、生前贈与などの相続対策を受託者が行うことも可能です。また、家庭裁判所の関与もなく、自宅の売却に許可を得る必要などもないため、手続きの労力や時間も削減でき、財産管理を柔軟かつスムーズに進められます

③ 遺言書の代わりとして使える

家族信託には、遺言としての機能が備わっています。遺言書を遺す場合、方式や作成方法が民法により定められており、手続きも厳格です。家族信託では、遺言書作成のような厳格な方式によらず、自分の死後に発生した相続について財産を承継する者を指定することができます。

また、家族信託の内容は遺言書よりも優先して適用されます。これは、法律の優先順位が関係しています。法律は一般法と特別法に分類されますが、特別法は一般法に対して優先されます。家族信託は特別法に基づいた信託法、遺言は一般法である民法に基づく制度となります。このことから、家族信託の内容は遺言書よりも優先して適用されます。

④ 不動産の共有によるリスクを回避できる

共有不動産は、共同相続人全員が協力しないと処分することができません。そのため、共有者のうちの誰か1人が認知症などによりものごとを判断する力(意思能力)を欠いてしまうと、不動産の売却や大規模修繕などの意思決定ができなくなるなどの問題が生じる可能性があります。家族信託では、共有者としての権利や財産的価値は平等にしたまま、管理処分権限を共有者の一人に集約しておくことができます。あらかじめそうしておくことで、さきほど取り上げた問題について防止することができます。

⑤ 財産承継の順位づけができる

家族信託では、遺産相続における相続順位を指定することができます。一般的な相続対策としては生前贈与や遺言書の作成などがありますが、生前贈与や遺贈をした財産に対しては、その次に相続が開始した場合の相続人を指定できません。一方、家族信託を利用すれば、最初に指定した受益者が万が一亡くなってしまった場合でも、その次の受益者を誰にするか指定できます。

また事業承継の際にも、株式の評価がゼロに近い時期に委託者と受託者を本人(現経営者)、受益者を相続人という自己信託(家族信託の一類型)をおこなうことで、贈与税をかけずに株式(受益権)を子ども等に承継させ、かつ自身も変わらず議決権を行使して経営に参加することが可能になります。事業承継を検討している方は、自己信託なども検討するとよいでしょう。

⑥ 二次相続についても指定できる

家族信託では、配偶者や子などへの財産の一次相続だけでなく、その先の孫やひ孫など、複数世代にわたる相続について定めることができます。遺言では、被相続人の死亡後の相続については定められますが、その先の二次相続人以降は指定できません。財産を確実に配偶者から子、その孫へ承継したい場合や、財産を直系の家族に相続させたい(他の家系に流れることを防ぎたい)場合などに、その希望を実現することも可能です。

⑦ 倒産隔離機能がある

倒産隔離機能とは、委託者または受託者が破産したり、信託財産に関係のない債務を負った場合でも、信託財産は差押えの対象にならないことをいいます。信託財産は、誰の固有財産でもない「独立した財産」として扱われるため、差押えの対象とはなりません。ただし、注意が必要なこともあります。受益者が持つ「受益権」です。受益権については差押えの対象となる場合があるため、委託者と受益者が同一の方である場合は、委託者(=受益者)の破産や債務により「受益権」が差押えられ、信託財産が影響を受けることも想定されます。

このように家族信託は非常に柔軟性が高く、利用するメリットも多いです。しかし、家族信託で全てが解決するというわけではありません。利用を検討する上で、事前に知っておくべき注意点がいくつかあるのも事実です。ここからは、デメリットについて解説します。

家族信託のデメリット

続きまして、家族信託のデメリットとして次の7つをご紹介いたします。

  1.  意思能力を喪失した後では利用できない
  2.  損益通算ができない
  3.  節税対策にはならない
  4.  信託できない財産もある
  5.  成年後見制度でしかできないこともある
  6.  長期にわたって受託者が拘束される
  7.  遺留分侵害額請求の対象となる場合がある

それでは、それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

不動産売却

① 意思能力を喪失した後では利用できない

家族信託の利用を検討する上で、最も重要な条件は 「意思能力」があることです。具体的には、委託者が「自分がどのような財産を持っていて、誰に託したいか」「どのように管理して欲しいか」といった意思表示ができるかということです。家族信託は信託契約を締結することにより開始しますが、意思能力が十分でない場合は締結した契約が、民法上”無効”になります。そのため、意思能力を喪失した後では、家族信託を利用することはできません。

以上のことから、家族信託は、意思能力が十分なうちから利用を検討し、対策を進めていくことをおすすめします。ただし、すでに認知症という診断を受けていた場合でも、症状が軽度であれば問題なく家族信託を利用できるケースもあります。「もう認知症と診断されているから」とあきらめるのではなく、一度専門家に相談してみると良いでしょう。

② 損益通算ができない

所得税の申告にあたり、赤字の所得を他の所得から差し引くことで課税される所得を減らすことを「損益通算」といいますが、家族信託では、損益通算を行うことができません。信託財産に収益不動産が含まれている場合に、信託財産から生じる不動産所得にかかる損失は、なかったものとみなされます。そのため、信託された不動産所得は、信託されていない収益不動産の黒字から差し引くことができないのです。

(租税特別措置法第41条4項の2)大規模な修繕を行う予定のある不動産を信託しようと考えているような場合は、損益通算ができないために、より多くの税金を支払うことになる可能性があることに十分注意が必要です。収益不動産を信託財産とする際は、必要に応じて税理士に相談するなどし、何を信託すべきか慎重に判断するようにしましょう。

③ 節税対策にはならない

家族信託を利用しても直接的な節税効果は期待できません。家族信託は認知症対策や、将来の財産の承継先を自由に設計できる仕組みとしてメリットがあります。しかし、家族信託を利用したからといって、本来払うべき税金が減るというわけではありません。どのように家族信託を設定するかによって、課税される税金の種類が変わってきます。家族信託の形と税金との関係をしっかりと把握しておくようにしましょう。

④ 信託できない財産もある

家族信託では信託できない財産があります。信託できない財産として、主に挙げられるのは農地と年金受給権です。農地は農地法による制限を受けるため、家族信託で信託することはできません。また、年金受給権も信託することができません。預金口座に振り込まれる年金は信託財産に含めることができますが、年金受給権自体を信託することはできません。

このことから、受託者が管理している信託専用の口座や受託者自身の口座に年金を直接入金することはできないため、振り込まれた年金をすぐに使うことができない点に注意してください。

⑤ 成年後見制度でしかできないこともある

成年後見制度の大きな特徴として「身上保護」があります。身上保護とは、意思能力を喪失した本人に代わって、住居確保や生活環境の整備、介護・福祉施設への入居、医療・入院に関する契約などの手続きを行うことです。家族信託は財産管理が主であり、受託者にはこの「身上保護権」がありません。そのため、身上保護が必要な場合は、「任意後見制度」と併用するなどの手段を取る必要があります。

ただし、一般的には家族が代わりに手続きをしている現状も多く見られるため、身上保護のためだけに成年後見制度を利用するかどうかの判断は慎重におこなうようにしましょう。「家族信託」「成年後見制度」それぞれの特性をきちんと理解した上で、家族の状況に合った選択をこころがけましょう。

⑥ 長期にわたって受託者が拘束される

家族信託のメリットの1つに、財産を何代にも渡って承継させることができる点を挙げました。しかし裏を返せば、長期間にわたり契約が続くことはデメリットにもなりえます。信託契約が開始すると、受託者は契約内容に従って財産管理を行う必要があります。仮に2代先、3代先と承継先を指定した場合、契約期間中何十年もの間、受託者は信託契約に拘束されることになるためです。

さらに受託者は、毎年1度、信託契約に係る帳簿をはじめとする書類を作成し、その内容を受益者に対して報告する義務も発生します。長期にわたり連続する信託は、契約が複雑化し思いがけないトラブルが発生するリスクがある上に、家族の負担となる可能性もあります。家族信託を検討する際はこの点を考慮し、話し合いのもと設計すると良いでしょう。

⑦ 遺留分侵害額請求の対象となる場合がある

遺留分とは法定相続人(主に配偶者・子・父母)に最低限保障された相続財産のことです。遺言や家族信託契約によって「特定の人物に遺産を全て引き継ぐ」など、遺留分を侵害する内容がある場合には、法定相続人は「遺留分侵害額請求」という手続きを行うことができます。(民法第1046条)遺留分の侵害は相続トラブルに発展するケースが非常に多いです。信託契約書作成の時点で遺留分に配慮し、相続人全体の中で不平等にならないように定めることが重要です。

まとめ

今回は家族信託のメリット、デメリットをそれぞれ7個ずつ挙げて、詳しくご紹介してきました。メリット、デメリットを理解することで、家族信託を活用すべきケース、そうでないケースが見えてきたのではないでしょうか?ひとつずつ対策を施しながら進めて、家族信託を上手に利用しましょう。

最後に、今回のブログをご覧になられて、家族信託を利用するかどうか、その進め方について悩まれている方もいるのではないでしょうか?そんな皆様へのアドバイスとして専門家のサポートを得ながらおこなうことをおすすめします。家族信託は家族ごとにケースが異なり、事例を参考にしようとしても難しい可能性があります。

そのようなときに司法書士や行政書士などの専門家に相談することで、それぞれのご家族に応じた進め方のアドバイスをしてもらえます。信託内容について気になった点もその都度解決できるため、安心して進められるでしょう。当社でもご紹介することができますので、家族信託にご興味をお持ちの方はお気軽にご相談ください。


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