土地の売却で利益が生じると、ふだんよりも所得税と住民税の負担が大きくなる可能性があります。くわえて、さまざまな特例が使えない場合や、物件の所有期間が短い場合、取得費がわからない場合などでは、税金の負担がさらに大きくなることもあります。
そんな時は、節税対策として、ふるさと納税の制度を上手に活用するとよいかもしれません。今回はふるさと納税とは何か、譲渡所得税・住民税の還付・控除を受けられる仕組み、ふるさと納税をするときの注意点などをご説明いたします。
この記事は富山県・石川県で不動産売買・仲介業を行うオスカー不動産が記事を執筆しております。
不動産売却時になぜ税負担が大きくなるのか、不動産を売却した際の税負担の仕組みについては以前にブログでご紹介していますので、こちらも併せてご覧ください。
>不動産売却時にかかる譲渡所得税とは?計算方法やその特例について説明いたします
ふるさと納税
はじめに、なぜふるさと納税が不動産売却時の節税対策となるのでしょうか。それはふるさと納税が、自分が応援したい自治体に寄附をすることで、税金が控除される制度だからです。また、ふるさと納税の上限額は所得を基準として定められます。不動産売却にて譲渡所得(不動産売却益)を得ると、その分は所得として給与など通常の所得以外として課税されます。課税される所得が増えればふるさと納税の上限額もアップし、より多くの寄付ができることになります。ふるさと納税では寄付金に応じて所得税と住民税が控除され、納税額を減額することができます。このことから有効な節税対策のひとつになっています。
ふるさと納税の仕組み
下記図はふるさと納税と税額控除の仕組みを表しています。寄付金のうち自己負担額の2,000円を除いた全額が所得税(復興特別所得税を含む)及び個人住民税から控除されます。
出典:総務省「ふるさと納税ポータルサイト」
所得が増えると納税上限額も増える
ふるさと納税の上限額は所得によって決められています。所得が高いほど上限額も引き上げられるため、不動産の売却によって譲渡所得を得ると、控除額も大きくなります。ただし、さきほどご説明したように不動産の売却において、売却で得た金額がそのまま譲渡所得になるわけではありません。状況次第でふるさと納税の節税効果は大幅に増減しますので、利用するシチュエーションを選ぶことが大切です。
ふるさと納税かマイホーム特例か選択する
さて今回、節税対策としてふるさと納税を取り上げている訳ですが、不動産売却時の節税対策はふるさと納税だけではありません。代表的なものとして、譲渡所得の説明にて先述した居住用財産の3000万円特別控除(マイホーム特例)もあります。特別控除により譲渡所得が発生しなくなる場合は、そもそも課税されなくなるためこちらを利用するべきといえます。それぞれの違いを比較して、いつどちらを使うべきかを考えましょう。
大前提として、ふるさと納税とマイホーム特例は併用できません。どちらかを選ぶ必要があるため、不動産売却の節税を考える際は、ふるさと納税とマイホーム特例などの軽減措置どちらがお得なのかを、しっかり考えなければなりません。また、マイホーム特例を利用する場合はその他の制度を併用することはできませんが、ふるさと納税と住宅ローン控除との併用が可能です。基本的には「マイホーム特例」もしくは「ふるさと納税+住宅ローン控除」のどちらかを利用するのか選ぶことになります。
自宅売却ならマイホーム特例
居住していた自宅を売却する場合は、マイホーム特例を選択した方がお得になることが多いです。これはマイホーム特例の控除額が大きい(3,000万円)ため、売却してもほとんど課税されないことが理由です。ふるさと納税を適用することも可能ですが、売却金額によっては課税対象が出てしまい、税額が大きくなる可能性が高いことは理解しておきましょう。
ただし、売却益が少ない場合には「マイホーム特例」よりも「住宅ローン控除」を使うほうがお得になる場合もあります。マイホーム特例を”あえて”使わずに「住宅ローン控除」を選ぶことで、売却益が発生し住民税等が上がります。この場合、ふるさと納税の上限額が増える可能性があり、結果としてお得になるというものです。
相続や投資目的の売却、取得費が分からない不動産の売却はふるさと納税
相続で不動産を得た場合や投資目的で購入した不動産の売却なら、ふるさと納税がお得です。これは自宅売却と違い、譲渡所得が発生しやすく課税されやすいことが理由です。そもそも相続で取得し居住していない、もしくは居住を目的としない投資目的の不動産では、マイホーム特例は適用されません。そのため、ふるさと納税による節税しか利用できないのが本当のところです。
また取得費がわからない場合、売却価格の5%で取得したものとして計算するため、売却益が大きくなりがちです。こちらの場合ではふるさと納税の上限額を大きく増やせる可能性が高く、ふるさと納税を利用するのが良いでしょう。
マイホーム特例が利用できない場合などでは、ふるさと納税を利用する場合としない場合とで税額が大きく異なるため、積極的に利用することをおすすめします。
ふるさと納税利用の流れ
続いて、不動産売却後のふるさと納税の流れを見ていきましょう。
- ふるさと納税の控除上限額目安を計算する
- 寄附先の自治体を選択
- ふるさと納税の申込手続き
- 返礼品と寄付金受領証明書を受け取る
- 寄附金控除の手続き
- 所得税還付・住民税控除
① ふるさと納税の控除上限額目安を計算する
ふるさと納税を利用する際は、まず控除上限額を確認しましょう。ネット上には上限額を計算するシミュレーターもありますが、より正確な控除上限額を確認したい方は、少々複雑ですが下記にしたがって計算してみましょう。
STEP1 源泉徴収票の「所得控除後の金額」をチェック
まず、前年の源泉徴収票や住民税通知書をお手元に用意してください。次にご用意された書類にて「給与所得控除後の金額」と「所得控除の額の合計額」を確認しましょう。給与などの収入にあたる「給与所得控除後の金額」から各種控除となる「所得控除の額の合計額」を差し引いたものを「所得控除後の金額」といい、ふるさと納税の上限額はこの金額をベースに決められます。
STEP2 所得から住民税所得割額を計算する
次に住民税所得割額を計算します。住民税所得割額とは、住民税のうち所得の額に応じて課税される税金になります。なお給与所得と不動産譲渡所得では課税方式が異なるため、別々に計算をします。
まず給与所得分の計算ですが、こちらはSTEP1で確認した「所得控除後の金額」に税率10%をかければOKです。
参考例)所得控除後の金額:800万円の場合 → 800万円×10%=80万円
次に不動産譲渡所得分ですが、こちらは不動産売却にて得た「譲渡所得」に税率をかけて求めます。ただし、売却した不動産の所有期間で以下のとおり税率が変わることに注意します。
所有期間 | 住民税率 |
---|---|
長期譲渡所得(5年を超える土地・建物等) | 5% |
短期譲渡所得(5年以下の土地・建物等) | 9% |
参考例)譲渡所得:500万円、所有期間:長期の場合 → 500万円×5%=25万円
上記で求めた給与所得分、不動産譲渡所得分それぞれを足したものが住民税所得割額となります。
STEP3 住民税所得割額と所得税率からふるさと納税の控除上限額を計算する
住民税所得割額まで求めることができれば、最後に控除上限額を計算します。この時、注意したいのが所得税率です。STEP1で求めた「所得控除後の金額」を基準として税率が変わるため、正確に税率を確認してから上限額を計算しましょう。
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下 | 5% |
195万円超 330万円以下 | 10% |
330万円を超 695万円以下 | 20% |
695万円を超 900万円以下 | 23% |
900万円を超 1,800万円以下 | 33% |
1,800万円を超 4,000万円以下 | 40% |
4,000万円を超 | 45% |
税率が確認できたら、次の計算式にあてはめて控除上限額を求めます。
住民税所得割額×20%÷(90%-所得税率×1.021)+2,000円
参考例)STEP2より → (80万円+25万円)×20%÷(90%-23%×1.021)+2,000円=およそ31万円
こうして、算出されたものが、ふるさと納税の控除上限額の目安となります。
② 寄附する自治体を選択する応援したい地域や返礼品等から寄附先を選びます。
次に納税をする自治体を選びます。もちろん自分が生まれ育ったふるさとを選ぶこともできますが、返礼品の内容などの視点で寄附する自治体を選ぶのも良いでしょう。
③ ふるさと納税の申し込み手続き寄附したい自治体を決めたらお礼品内容を確認して、申し込み手続きを行います。
申込方法は、電話やFAX、メール、直接窓口に行くなどの方法があり、対応は自治体によってさまざまですが、 多くの自治体でインターネットでの申し込みを受け付けており、寄附先の自治体を選ぶうえでも便利な方法です。
④ 返礼品と寄附金受領証明書を受け取る
自治体からお礼の品として寄附時に申し込んだ「返礼品」と「寄附金受領証明書」が届きます。寄附金受領証明書は、寄附をした自治体が発行する領収書です。これは、寄附金控除の手続き(確定申告)の際に必要となるため大切に保管しておきましょう。
⑤ 税金控除の手続きを行う
寄付金控除の手続き控除を受ける手続きとして、「確定申告」または確定申告の必要がない「ワンストップ特例制度」があり。いずれかの手続きを行うことになります。
確定申告 | 年に一度の手続きによって税額控除を受ける。自身で行う必要があり、手間がかかる。 複数の自治体に寄付した場合でも、確定申告の時期にまとめて手続きができる。 |
---|---|
ワンストップ特例制度 | ふるさと納税の都度、自治体に書類を提出することで、確定申告をしなくても 税額控除を受けられる。寄付先が少ない場合はより便利に利用できる。 |
不動産売却時はワンストップ特例制度を利用しても意味がない!?
ワンストップ特例制度とは、ふるさと納税の控除に関わる一部の業務を寄付先の自治体が行ってくれる制度です。こちらの制度は便利な制度ではありますが、確定申告をする必要がある人は利用できません。制度を利用できる人の条件は以下のとおりとなります。
- 確定申告をしなくてもよい給与所得者
- ふるさと納税の寄付先の自治体が5カ所以内の人
譲渡所得が発生した不動産売却においては確定申告を行う必要があるため、基本的にワンストップ特例制度は利用できません。仮にワンストップ特例制度で各自治体に書類を提出した後に確定申告すると、ワンストップ特例制度の申請が無効になります。確定申告する際は、すでにワンストップ特例制度で申請済みのふるさと納税額に関しても併せて申告する必要があるため、二度手間になってしまいます。不動産売却時の税金対策としてふるさと納税を利用したい場合は、ワンストップ特例制度ではなく確定申告を選択すると良いでしょう。
⑥ 税金控除・還付を受ける
所得税還付・住民税控除寄附金控除の手続きを期限までに行うと、住民税の控除・所得税の還付がされます。なお、ワンストップ特例制度と確定申告では、それぞれ税金が控除(還付)される時期が少し異なります。まとめ不動産売却では大きな利益が出ることもあり、利益が大きいとその分課税額が大きくなります。
まとめ
不動産売却で活用できる節税対策は少なく、ふるさと納税は数少ない制度のひとつです。ふるさと納税なら、所得に応じた上限額まで所得税と住民税が控除され、多額の利益を得ても、税額を減額することができます。ふるさと納税の利用でお得になるかどうかはケースによって異なるため、一概におすすめとは限りませんが、メリットがあるのは確かです。節税対策にふるさと納税の利用も頭に入れ、状況にあった制度を利用して、少しでもお得に不動産を売却しましょう。
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